2011年9月26日

表層建築のさきがけ/シグナル・ボックスと機関車車庫(スイス)

 スイス北部に位置するバーゼル市は、ドイツ、フランスとの国境近くにあり、真夏でも涼しく、快適にすごす事ができます。私達が宿泊したホテルにはエアコンの設備が無かったほどでしたから。ヘルツォーク&ド・ムロン(2人とも1950~)設計の『シグナル・ボックス』(1995)が見たくて、いざ。それは、単純なボックスの外側に巾20㎝程の銅板の帯が巻きつけられています。電磁波をブロックするためのようなのですが、理屈はさっぱりわかりません。帯は中央で捻られていて、ボワーッ とした不可思議な視覚効果を生んでいます。内部に入ると、外部から見る限りスケール感が掴められないのですが、そこは普通の6層の執務室。帯の隙間越しに見える外の景色は、予想以上に視界良好でした。

 同じく、ヘルツォーク&ド・ムロンの設計による『機関車車庫』(1995)は「シグナル・ボックス」の真向かいの、鉄道線路が終結する位置にあります。無駄な要素を削ぎ落とした、タイトなヴォリュームが好ましく見えました。

2011年9月12日

建物が写真機になった・・・本当です/植田正治写真美術館(鳥取県)

 何でもありのポストモダンが主流だったバブル最盛期、建築家・高松伸(1948~)はその真っ只中にいました。そして、バブルが崩壊して彼の作風は変わりました。この間の変化については、評価の分かれるところではあります。その分水嶺となったのが、今回の『植田正治写真美術館』(1995)であったと思われます。伯耆大山のふもと、遮る物のない田園風景の中に、ボックスが4個並んで建つ。その内の1個に大きなレンズが付いていて室内に大山が映し出され、まるで写真機の中にいるような面白い体験ができます。高松伸の新機軸も味があるのですが、大変残念に感じたことを一つ。外壁の打ち放しコンクリート表面の汚れと傷みが激しいのです。建物が綺麗になりたくて、泣いているように見えました。一刻も早い手当てが必要です。
 ※あまりにひどい、アプローチ周辺の写真は省いています。

2011年9月5日

北九州・門司港の”赤い 鮫” /門司港ホテル(福岡県)

 設計者 A・ロッシ(1931~1997)が自ら”SHARK”と名付けた『門司港ホテル』(1998)。北九州門司区の再開発事業の核になる施設として誕生しています。ホテル正面、赤い中央入り口の門から、大階段が2階へ導きます。客室のインテリアはフロア毎にブルー、ブラウン、グリーンなど基調色があって、それぞれが落ち着いた雰囲気に整えられています。最上階にあるバーラウンジからは、門司港とJR駅舎などが一望。これなら、私の弱い酒も旨い! 劇場、茶室、港湾オフィスなども備えられているようですが、今回私は見ていません。内外に使われている多くの印象的な素材と色彩が、適材適所でピシッと極まっています。煉瓦タイル、スタッコ、砂岩、磁器タイルなどでです。

 木造2階建て、屋根に緑青を戴いた九州最北端の駅、『JR門司港駅舎』のデザインは、西欧文化からの引用といわれますが、情緒のある姿で大切に保存されています。国の重要文化財に指定されています。